2023年7月25日 常磐線に乗って「JR常磐線上り列車-マスク-」プレ公演を観てきました
東日本大震災と原発事故で寸断されていたJR常磐線が全線開通したのは2020年3月14日。
2022年8月、その常磐線の下り列車に乗って南相馬市・小高駅近くのブックカフェ「フルハウス」を訪れました。そして今年7月24日、「フルハウス」の裏にオープンした小さな劇場「Rain theatre(レインシアター)」に、今回は常磐線上り列車で訪れました。
Rain theatre建設にあたっては、クラウドファンディングに協力させていただき、演劇が上演される際にはぜひとも足を運びたいと思っていました。運良くお店の定休日である月曜日にプレ公演があるとの情報を得てさっそくチケットを購入。ほぼ1年ぶりの小高再訪となりました。
この日は、福島市内にある「椏久里珈琲」で福島在住の旧友と再会の後、福島駅からJR東北線で白石経由、岩沼で常磐線上りに乗り継ぎ、夕方に小高駅に着きました。福島から約3時間の道のりでした。
18:00開演のプレ公演は「常磐線舞台芸術祭」のうちの一つのプログラムである「JR常磐線上り列車-マスク-」という演劇。柳美里さん率いる「青春五月党」3年ぶりの新作で、8月4日(金)〜6日(日)の本番に向けた稽古をそのまま上演するもの。
「マスク」の舞台となるのは、JR常磐線の車内。
登場人物は異なる時を生きる高校生たちである。
2020年5月15日、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除された翌日、マスクを着用して登校する高校生たち。
2011年5月14日、放射線防護のためにマスクを着用し、避難先からサテライト校に通う高校生たち。
2011年3月10日、マスクを着用せずに下校する高校生たち。
出来事は過去に編入される際に、正負や善悪に振り分けられがちだが、過去の今を生きる人々もまた、現在の今を生きる私たちと同様に、これから何が起こるか全く知らされないまま未来を眼差していたのである。かれらと私たちは、同じ時に揺られて、同じ方向に進んでいる。
「常磐線上り列車-マスク-」で描く時は、現在する過去である。
(青字部分は「常磐線舞台芸術祭」公式ガイドブックより引用)
この日は、第一幕の通し稽古と、第二幕のモノローグ部分の一部でした。たくさんの中高生はじめ関係者のヒアリングを重ねて作られたという台本のセリフの数々に胸が熱くなる。あの時"現在"を生きていた人々の言葉が自分の過去の記憶を蘇らせてくれる。全編を通して観たい気持ちが、いやがうえにも高まりました。
この日の観劇で、役者・スタッフが一丸となり、試行錯誤しながら一つの作品の完成度を高めていく過程を見ることができたことは、自分にとって稀有な、そして貴重な体験でした。
終演後、原ノ町駅前のホテルに向かう小高からの下り列車で、同乗した役者の方々と少しだけお話しもでき親近感も増しました。本番の成功を心から願います。
今回は本公演を観ることは叶いませんが、いつかこの作品を観る機会が訪れるなら、また常磐線に乗って観に行きたいと思います。